目次
1 はじめに
最近では、夫婦・家族の在り方に多様性が認められるようになり、夫婦として「入籍」という手続をとらない方も、昔と比べて増えてきました。
入籍をしない夫婦の形である、いわゆる「内縁」についても、法律婚に準じて取り扱うという傾向も増えてきました。
このように、世間的には色々な夫婦の形が認容されるようになってきたものの、法律や制度の面では、入籍をした「法律婚」の夫婦と、「内縁」の夫婦との間には、取り扱いに差異があります。
本稿では、相続の場面における法律婚と内縁の違いについて、ご紹介します。
2 相続権
2−1 入籍していないと相続できない?
ある方が亡くなった場合に、誰が相続人となるかは、民法で決まっており、配偶者は常に相続人となります(民法890条前段)。
もっとも、ここでいう「配偶者」は、法律上の婚姻関係にある相手方のことをいいます。つまり、民法上の相続の規定では、内縁関係を想定しておらず、内縁のパートナーについて相続権が認められていません。
このように、入籍していない場合、パートナーには相続権がありません。
2−2 内縁のパートナーに相続させる方法は?
内縁の場合、相続権がないとはいえ、パートナーに財産を引き継ぐ方法はいくつかあります。
一つは、生前から少しずつ贈与する方法です。この場合、年間の贈与額が110万円(現金以外の場合にはその物の評価額を基準とします。)を超えると贈与税がかかりますので、ご注意ください。
もう一つは、遺言による方法です。生前に遺言を作成し、自己の財産を内縁のバートナーに引き継がせることを明記します。この方法を遺贈といいます。
2−3 遺贈の場合の注意点は?
もっとも、遺贈の場合には、法定相続人の権利を侵害しないように注意しなければなりません。
相続の場面では、遺留分といって法定相続人に対し一定割合の取分が認められており、この割合を侵害するような遺贈があった場合には、遺贈を受けた人に対して侵害された分の支払を求めることができます。
例えば、内縁の夫婦の夫が亡くなった場合で、夫には子どもが一人いる場合を見てみます。この場合、子どもの遺留分は全体の2分の1です。そのため、例えば全財産を内縁の妻に遺贈するという遺言を作成した場合、その半分については子どもの遺留分を侵害することになってしまいますので、相続開始後に子ども側から遺留分侵害額の請求をされる可能性があります。
2−4 遺留分を請求されないようにするには?
したがって、遺言を作成する際には、相続開始後に内縁のパートナーが法定相続人から遺留分減殺額の請求がされないよう、遺留分に注意した内容にする必要があります。
また、例えば全財産を内縁のパートナーに引き継がせたい場合には、全体的な解決方法ではありませんが、事前に法定相続人に対して真摯に説明をしておき、理解を得ておくことも重要です。生命保険金の受取により関係者間の実質的な公平を図ることも有用です。
3 相続に関する税金
3−1 相続に関する税金についても法律婚と事実婚で違いがある
相続における税金の関係でも、法律婚の場合と内縁の場合で大きな違いがあります。
前提として、相続の場面では、配偶者に税務上の優遇措置がいくつか規定されています。この税制上の優遇措置も法律上の婚姻関係を前提にしているため、婚姻届を提出していない内縁の場合にはこれの措置の対象外となってしまいます。
以下では、具体的にどのような税制上の措置があるのか説明します。
3−2 基礎控除額の計算
相続が発生した場合、相続の対象となる財産の価格に応じて相続税が課せられます。もっとも、相続財産のうち、一定の金額については、相続税の対象となる価格(課税価格)から控除されます。
これを「基礎控除」といいます。具体的には、3000万円に加え、600万円×法定相続人の数が基礎控除額になります。
例えば、法律婚の配偶者がおり、子が二人いる場合には、3000万円+600万円×3人で4800万円が基礎控除額になり、この金額までは相続税の対象となりません。
しかし、内縁の場合には、パートナーは相続人には含まれませんので(相続権がありません)、基礎控除額を計算する際の人数には含まれません。
3−3 配偶者の税額軽減
次に、相続税における配偶者の優遇制度として、配偶者の税額軽減制度があります。
これは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した相続財産額が、次の金額のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税がかからないという制度です。
② 配偶者の法定相続分相当額
具体的には、被相続人の遺産が3億円あり、配偶者と子一人がそれぞれ2分の1ずつ相続する場合、配偶者には相続がかからないことになります(配偶者の法定相続分が3億×1/2で1億5千万円となり、1億6千万円の方が多いので、その範囲で非課税となります。)。
相続における配偶者の税額軽減は、相続される財産の形成には、配偶者の協力が大きいことや、相続後の配偶者の生活を守ることを目的としていると言われています(夫婦間は比較的年齢が近いため、近い時期に夫婦の財産につき二重に課税されることを回避する趣旨もあるとされています。)。このような趣旨からすると、内縁の夫婦の場合にもその実質は変わらないとも考えられますが、あくまでの税制上の優遇制度ですので、法律上の夫婦関係にのみ適用されます。
なお、相続における配偶者の税額の軽減制度の適用については、婚姻期間の要件はありません(これとの対比で、生前贈与における配偶者控除の場合には婚姻期間が20年以上であることが要件とされています。)。
3−4 小規模宅地等の特例
もう一つ、相続における配偶者に対する特別な制度として、小規模宅地等の特例というものがあります。
これは、不動産に関する特例で、宅地等の不動産について、一定の要件のもとに、相続税の課税価格の計算において、その土地の評価額の割合を減額することができる制度です。これにより、対象不動産の評価額が最大80%軽減でき、相続税の対象となる財産の評価額を減らすことができます。
相続財産の中でも比較的価値が高い宅地等について、評価額のまま相続税が課せられるとなると、相続人が引き継ごうと思っても相続税が払えず、結局その不動産を手放さないといけないという事態もありますから、この特例は非常に大きな効果があるといえるでしょう。
対象となる宅地等は、住宅の敷地のほか、事業用宅地や貸付事業用の宅地も含まれます。
また、小規模宅地の特例は、相続または遺贈により取得した宅地等が対象とされるため、配偶者以外の親族でもこの特例の対象となります。
しかし、いずれにしても取得する者が被相続人の「親族」であることが要件とされているため、この制度も内縁の配偶者には適用されません。
本稿では、この小規模宅地等の特例の詳しい説明は割愛しますが、この制度の適用の有無も法律婚と内縁の場合で違いがあるものの一つです。
3-5 相続税額の違い
以上で見たのは、相続税の計算にあたり課税価格をどう算定するかという点に関する違いです。
この算定方法以外に、相続税の納付額の計算においても法律婚と事実婚とで違いが出てきます。
各相続人等の相続税額は、
により計算し、そこから各種の税額控除額をします。
もっとも、財産を取得した人が被相続人の配偶者及び一親等の血族(両親、子ども)以外の場合には、税額控除をする前の相続税額が20%加算されます。
ここでも内縁のパートナーは「配偶者及び一親等の血族」には当たらないため、内縁の場合には相続税が20%加算されることになります。
3−6 注意点
なお、各種の税額控除が適用され結果として相続税がかからなくても、相続財産の評価額が基礎控除額を超える場合には、配偶者の税額軽減等の措置を受けるためにも相続税の申告が必要となりますので、ご注意ください。
4 さいごに
本稿では、相続の場面における法律婚と内縁の違いをご説明しました。このように、相続の場面で見ると、法律婚の配偶者に対しては特に税制上の優遇制度が多くあります。
もっとも、入籍するか否かということは相続の観点だけでなく、皆さまそれぞれのご事情あってのことでしょう。
先々の相続のことも踏まえ、どのようにプランニングすべきか、相続分野に詳しい弁護士に是非一度ご相談ください。